ある人がお亡くなりになって相続が開始したとき,その相続人は,相続財産(遺産)を承継するかしないかを選択することができます。
まず,プラスの財産もマイナスの財産も含めたすべての相続財産を承継することを,単純承認といいます。
もっとも,マイナスの財産の方がプラスの財産よりも多い場合,単純承認では相続人が借金等の返済を負担することになってしまいます。
このような場合に備え,民法では,相続放棄と限定承認という2つの制度が存在します。
今回は,そのうち,限定承認という制度について紹介します。
※ 相続放棄については,相続財産を承継したくない場合(相続放棄)をご参照ください。
限定承認とは,「相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して,相続の承認をする」ことをいいます(民法922条)。
これは,相続財産の中にマイナスの相続財産がある場合,プラスの相続財産でそのマイナス分を弁済した後,余りがあればそれを相続できる,とするものです。
限定承認のメリットは,①相続財産の合計がマイナスとなってしまった場合にはそのマイナス分は相続しなくて済むという点にあります。
加えて,限定承認では,②特定の財産のみを引き継ぐことが可能というメリットがあります。
例えば,相続財産の中に自宅不動産が存在する場合,相続放棄を選択すると相続人は自宅を手放さなければならなくなります。
これに対し,限定承認を選択すると相続人は先買権という制度を利用することにより,自宅の評価額を支払って自宅を取得することが可能になります。
他方,限定承認にはいくつかのデメリットも存在します。
まず,❶相続人が複数人存在する場合,限定承認を行うためには共同相続人全員が共同して行わなければなりません。
次に,限定承認を行う場合は,❷「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」に家庭裁判所に申立てをしなければなりません。
3か月を過ぎてしまったら,原則として限定承認は行えず,単純承認されたものとみなされてしまいます。
さらに,限定承認の場合,❸単純承認や相続放棄に比べて手続が複雑でやらなければならないことが多く,費用もかかります。
例えば,相続財産の中に不動産が含まれる場合,競売手続を行うか,その財産の価格を鑑定等により明らかにしたうえで買い取るか否かを選択しなければならないため,時間とお金がかかります。
さらに,限定承認は❹相続開始時に被相続人がすべての財産を相続人に譲渡したものとみなされます。
その結果,相続人に譲渡所得税が課されるおそれがあります(このことを,「みなし譲渡所得税」といいます)。
これらのメリット・デメリットが存在しますので,限定承認は以下のような場合になされることが多いといえます。
① 特定の相続財産を手放したくないとき
② プラスの相続財産マイナスの相続財産のどちらが多いかわからないとき
なお,実務上,限定承認がなされることは単純承認や相続放棄に比べると多くありません。
単純承認,相続放棄,限定承認のうち,個々のケースに応じてふさわしい手続を選択しましょう。