前回のコラム(「相続財産」と「遺産分割の対象となる財産」の関係)でご紹介しましたように,相続財産と遺産分割の対象になる財産は,必ずしも一致しません。
今回は,相続財産にはならないものの,遺産分割の対象とすべきではないかが問題とされるものについてご紹介します。
まず前提として,相続財産でないものは遺産分割の対象にはならないのが原則です。
※ 相続財産については相続財産とは? をご参照ください。
もっとも,相続財産ではなくとも,共同相続人全員の合意により,遺産分割の対象とすることができるものがあります。
以下,具体例を紹介します。
① 生命保険金や死亡退職金
生命保険金や死亡退職金は相続財産には該当しませんが,柔軟な解決を図る必要から,共同相続人全員の合意があれば,遺産分割の対象とすることができます。
※ 生命保険については生命保険金は相続財産に含まれる? を,死亡退職金については,死亡退職金は相続財産に含まれる? をそれぞれご参照ください。
② 相続開始後に相続財産から生じた果実
法律用語での果実
とは,物から生じる収益をいい,木から生じた木の実などについては天然果実,不動産の賃料などについては法定果実と呼ばれます。これらは,相続開始後に生じたものであって,相続開始の時に被相続人が有していた財産とはいえませんので,相続財産には該当しません(相続開始前に生じていたものは相続財産に含まれます)。
しかしながら,相続開始前後での果実の扱いを異にすると煩雑であったり回収に労力を要する場合もあります。
そこで,実務上は,共同相続人全員の合意により,相続開始後の果実であっても遺産分割の対象とすることができるものとされています。
③ 相続財産の管理費用
相続開始後に生じた相続財産の管理費用(例えば不動産の固定資産税や火災保険料など)が相続財産に該当するかについては,見解が分かれております。
もっとも,管理者に不公平な結果となりうることから,少なくとも遺産分割の対象として考慮することも可能と解されていることが多いです。
実務上も,共同相続人全員の合意により遺産分割の対象とすることは可能とされています。
④ 相続財産の代償財産
例えば,被相続人が生前有していた建物が,相続開始後に火災によって焼失した場合,その建物を対象とした火災保険金請求権を得ることになります。
また,相続財産の売却した場合その売却代金を得たり,不動産を共同相続人のうち1人の名義にする代わりに他の共同相続人が代償金を得たりすることがあります。
これら,(相続)財産が消滅・逸失する代わりに得た財産的利益を代償財産といいます。
そのため,代償財産は相続開始後に生じた財産的利益であるため,相続財産ではありません。
もっとも,遺産分割の際に代償財産を含めて協議をした方が妥当な解決を図ることが可能になることもあります。
そこで,共同相続人全員の合意により相続財産の代償財産を遺産分割の対象に含めることは可能とされております。